非認知能力の育て方|定義・種類・家庭とインターナショナルスクールでの実践法を解説

「テストの点数だけでは測れない力を、子どものうちに育てたい」と考える保護者の方が増えています。こうした、学力テストだけでは捉えにくい力を考える際に使われる言葉の一つが「非認知能力」です。
近年、教育や経済学、心理学などの研究を通して、非認知能力と学業、仕事、社会生活、ウェルビーイングとの関係が広く研究されるようになりました。一方で、「具体的にはどのような力なのか」「家庭では何ができるのか」「インターナショナルスクールの教育とどのように関係するのか」と疑問を持つ保護者も少なくありません。
本記事では、非認知能力の定義と代表的な種類、注目されるようになった背景、家庭での育て方、そしてインターナショナルスクールの学習環境との関係について、研究や教育実践を踏まえながら体系的に解説します。
非認知能力とは何か
非認知能力とは、テストの点数やIQなどの数値だけでは十分に捉えにくい、行動や感情、人との関わり方などに関係するさまざまな力を指します。ここでは、認知能力との違いや、非認知能力がどのような力から成り立っているのかを見ていきましょう。
「認知能力」と「非認知能力」の違い
子どもの発達や学びに関わる力は、大きく「認知能力」と「非認知能力」という観点から捉えられることがあります。
認知能力は、知識、記憶、推論、言語、計算など、学習や問題解決に直接関わる知的な力を指します。IQや学力テストなどによって、その一部を数値として測ることができます。一方、非認知能力は、粘り強さ、自己管理、好奇心、協調性、感情の調整など、認知能力だけでは捉えきれない幅広い特性やスキルを表す言葉です。非認知能力も質問紙や行動観察などを通して評価されることがありますが、単純なテストの点数だけで測れるものではありません。
たとえば、「目標に向かって粘り強く取り組む力」「他者と協力する力」「感情を調整する力」「好奇心」「自分を肯定的に捉える感覚」などが挙げられます。こうした力は、日々の生活、遊び、学習、人との対話や試行錯誤を通して少しずつ育っていきます。
非認知能力の構造を1軒の家に例えると
非認知能力の関係をわかりやすく捉えるために、「1軒の家」に例えて考えてみましょう。これは研究上の統一された分類ではなく、さまざまな力の関係を理解するための一つのイメージです。
自己肯定感を家を支える「土台」と考え、その上に、①自分自身に関わる力と、②他者との関わりに必要な力という「2つの柱」があると考えます。そして、さまざまな経験を重ねる中で育っていく「自信」を、家を覆う「屋根」と捉えることができます。
自分が受け入れられているという感覚は、新しいことに挑戦する際の支えになります。さらに、自分で考えて行動したり、周囲の人と関わったりする経験を積み重ねることで、少しずつ自信も形成されていきます。「土台・柱・屋根」というイメージで考えると、非認知能力がそれぞれ独立したものではなく、相互に関わりながら育っていくことが理解しやすくなります。
非認知能力が注目される理由

非認知能力は、学力だけでなく、将来の仕事や人間関係、健康、生活の満足度などとの関連が研究されてきました。ここでは、代表的な研究と国際的な取り組みから、なぜ教育の分野で注目されているのかを見ていきます。
ノーベル賞経済学者が示した「幼児教育の経済学的価値」
非認知能力への関心を広げた研究者の一人が、2000年にノーベル経済学賞を受賞したシカゴ大学のジェームズ・J・ヘックマン教授です。ヘックマン教授は、幼少期の教育経験と、その後の教育、就労、健康、社会生活などとの長期的な関係を分析し、幼児期への教育投資の重要性を示してきました。
その議論でしばしば取り上げられるのが、アメリカ・ミシガン州で1960年代に実施された「ペリー就学前プロジェクト」です。この研究では、社会経済的に不利な環境にあったアフリカ系アメリカ人の幼児を対象に、子どもの主体的な活動を重視した就学前教育と家庭への支援が行われ、その後の人生を長期にわたって追跡しました。
追跡調査では、プログラムに参加したグループと参加しなかったグループの間に、成人後の収入、就労、教育、犯罪など複数の指標で違いが見られました。重要なのは、こうした長期的な差をIQの変化だけで説明することは難しく、粘り強さや自己調整、社会的な行動など、認知能力以外の要素にも研究上の関心が向けられたことです。これが、幼児教育における非認知的な側面への注目を高める一つの契機となりました。
OECDも認めた「社会情動的スキル」の重要性
経済協力開発機構(Organisation for Economic Co-operation and Development:OECD)は、2015年に「社会情動的スキル(social and emotional skills)」に関する報告書を公表しました。そこでは、目標に向かって取り組む力、他者と協働する力、感情を調整する力などと、学業や就労、健康、生活満足度との関係が取り上げられています。こうしたスキルには、目標に向かって取り組む力、他者と協働する力、感情を調整する力などが含まれ、学業だけでなく、健康、就労、社会参加、生活満足度などとの関係が研究されています。
非認知能力の代表的な10の種類を3つの層で整理

非認知能力には研究者・機関によってさまざまな分類があり、統一された一つのリストがあるわけではありません。ここでは、教育や発達を考えるうえでよく取り上げられる力を、理解しやすいよう「自分の土台となる力」「自分をコントロールし高める力」「他者と関わる力」、そしてそれらと関係しながら育つ力として整理します。
| 層 | 力の名称 | 概要 |
| 土台 | 自己肯定感 | 自分の存在・価値を丸ごと受け入れる感覚。すべての非認知能力の出発点 |
| 対自分の力 | 主体性 | 自分の意志と判断で責任を持って動こうとする姿勢と意欲 |
| やり抜く力 | 困難な状況でも粘り強く最後まで取り組む力(グリット:根気・情熱・持続力) | |
| 自己管理力 | 感情・行動・欲求をコントロールし、目標に向けて自分を律する力 | |
| 好奇心・探求心 | 「もっと知りたい」「試してみたい」という内発的な動機。学びの原動力 | |
| 創造性 | 既存の枠を超え、新しいアイデアや解決策を生み出す力 | |
| 対他者の力 | 共感力 | 相手の気持ちや立場を想像し、感情を共有できる感性 |
| コミュニケーション力 | 自分の考えを適切に伝え、他者の意見を正確に受け取り、信頼関係を築く力 | |
| 協調性 | 異なる価値観・背景を持つ人々と尊重し合いながら共通の目標に向かう力 | |
| 結果として育つ力 | レジリエンス | 失敗・逆境に遭遇してもしなやかに立ち直り、前向きに進み続ける力 |
家庭でできる非認知能力の育て方——5つの実践アプローチ

非認知能力は、特別な教育やトレーニングだけで育てるものではありません。毎日の親子の関わりや声かけ、子ども自身が考え、選び、試してみる経験も大切です。ここでは、家庭で取り入れやすい5つの方法を紹介します。
安心できる親子関係をつくり、自己肯定感を育む
子どもが新しいことに挑戦したり、失敗から学んだりするためには、「失敗しても受け止めてもらえる」という安心感が大切です。家庭の中で自分が大切にされていると感じられることは、自己肯定感を支える一つの要素になります。
たとえば、子どもが学校で嫌なことがあったとき、すぐに解決策を示すのではなく、まず話を聞くことから始めます。「そう感じたんだね」「それは悔しかったね」と気持ちを受け止めるだけでも、子どもは自分の感情が理解されたと感じやすくなります。
できたことだけを評価するのではなく、結果にかかわらず子どもの存在や思いを認めることも大切です。安心して失敗できる環境があるからこそ、子どもは次の挑戦に向かいやすくなります。
子どもの気持ちを受け止め、感情を整理する力を育てる
子どもは、怒りや悲しみ、悔しさを感じても、それをうまく言葉にできないことがあります。そのようなときは、親が気持ちを決めつけるのではなく、「何があったの?」「どんな気持ちだった?」と、子ども自身が振り返るきっかけをつくります。
たとえば、まだ遊びたいのに終わりにしなければならず怒っている場合、「まだ遊びたかったんだね」と言葉にして返すことで、子どもは自分の感情を認識しやすくなります。
自分の気持ちに気づき、言葉で表現する経験は、感情を調整する力につながります。また、自分の感情を理解することは、相手の気持ちを想像する力を育てるうえでも大切です。
頑張った過程に目を向け、挑戦する力を伸ばす
子どもを褒めるときは、結果だけでなく、「どのように取り組んだか」に目を向けることも大切です。
たとえば、テストで良い点を取ったときに「すごいね」で終わらせるのではなく、「前より早くから勉強を始めていたね」「わからないところを自分で調べていたね」と、具体的な行動や工夫を言葉にします。
努力や工夫の過程を認めてもらうことで、子どもは結果だけにとらわれず、「次はどうすればよいだろう」と考えやすくなります。すぐに結果が出ないことにも粘り強く取り組む姿勢は、こうした日々の経験の積み重ねから育っていきます。
子ども自身が決める機会を増やし、主体性を育てる
子どもの主体性を育てるには、自分で考えて決める経験を日常の中に取り入れることが大切です。すべてを子どもに任せる必要はありません。年齢に応じて、「どちらにする?」と選択肢を示すことから始めることもできます。
たとえば、休日の過ごし方や読みたい本、着る服など、家庭のルールの範囲で子どもが選べる場面をつくります。自分で選び、その結果を経験することは、「自分で考えて行動する」という感覚を育てます。
もちろん、子どもの希望がいつもそのまま実現するとは限りません。その場合も、「どうしてそうしたいと思ったの?」と理由を聞くことで、自分の考えを整理し、伝える経験になります。こうした小さな選択の積み重ねが、主体性や自己決定につながっていきます。
親も挑戦する姿を見せ、失敗から学ぶ姿勢を伝える
子どもに「失敗を恐れず挑戦してほしい」と伝えるだけでなく、身近な大人が実際に挑戦し、試行錯誤する姿を見せることにも意味があります。
たとえば、親が新しい仕事や趣味に挑戦したり、苦手なことに取り組んだりする姿を子どもが目にすることがあります。うまくいかなかったときに、「失敗したけれど、次はこうしてみよう」と話せば、失敗を終わりではなく、次の工夫につながる経験として捉える姿勢を伝えられます。
子どもは、日々の生活の中で身近な大人の行動をよく見ています。親が完璧である必要はありません。試し、考え、やり直す姿そのものが、変化への柔軟性や困難から立て直す力について学ぶ一つのモデルになります。
非認知能力が育つ環境——インターナショナルスクールとの深い関係

非認知能力は、日々の学習や人との関わりの中で少しずつ育っていきます。特に、自分で考えて学ぶことや、異なる考えを持つ人と協働することが日常的に求められる環境では、さまざまな非認知的スキルを使う場面が生まれます。ここでは、インターナショナルスクールの教育との関係を見ていきます。
探究型学習が非認知能力を育てる理由
探究型学習では、教師から知識を受け取るだけでなく、子ども自身が問いを持ち、情報を集め、考え、他者と意見を交わし、振り返るという学習のプロセスを重視します。こうした学びでは、好奇心、主体性、粘り強さ、創造性、コミュニケーション力などを実際に使う場面が自然に生まれます。
国際バカロレアIBのPYP(初等教育プログラム)も、探究を学習の重要な要素として位置づけています。教師は単に答えを提示するのではなく、子どもの問いや思考を支え、学びを深める役割を担います。自分で考え、試し、必要に応じて考え直す経験を重ねることは、知識の習得と同時に、学びに向かう姿勢や自己調整の力を育てることにもつながります。
多国籍環境が育てる共感力・協働力・社会性
インターナショナルスクールの特徴の一つは、異なる国籍や文化的背景を持つ子どもたちが日常的に共に学び、生活する環境にあります。言語や考え方、習慣が異なる友人と関わる中では、自分の考えを伝えるだけでなく、相手の立場を理解し、違いを調整しながら一緒に取り組むことが求められます。
こうした日々の経験は、共感力、協働力、社会性、コミュニケーション力を実際に使いながら学ぶ機会になります。IB PYPの「10の学習者像」に「思いやりのある人(Caring)」「心を開く人(Open-minded)」「コミュニケーションができる人(Communicators)」「考える人(Thinkers)」などが含まれていることも、学力だけでなく、他者との関わり方や学びに向かう姿勢を重視する教育観と重なります。
代々木インターナショナルスクールでの非認知能力育成

代々木インターナショナルスクールでは、少人数制のクラスと探究型学習を通して、一人ひとりの考えや個性を尊重しながら学びを進めています。授業の中で自分の考えを伝える、問いを持つ、試してみる、うまくいかなければ考え直す、友人と協力するといった経験を重ねることは、主体性、粘り強さ、自己管理、協働力などを育むことにもつながります。
また、さまざまな国籍や文化的背景を持つ生徒や教員との日々の対話は、異なる考え方に触れ、自分の考えを伝え、相手を理解しようとする経験の積み重ねでもあります。こうした学校生活全体が、共感力やコミュニケーション力、社会性を育てる環境の一部となっています。
まとめ
非認知能力とは、テストの点数だけでは十分に捉えにくい、子どもの行動、感情、人との関わり方、学びに向かう姿勢などに関係する幅広い力を指します。自己肯定感、主体性、粘り強さ、自己管理、好奇心、創造性、共感力、コミュニケーション力、協調性、レジリエンスなど、その捉え方や分類は研究者・機関によって異なりますが、子どもの成長を学力だけではなく多面的に考えるうえで重要な視点です。
家庭では、安心できる関係をつくること、感情を言葉にすること、結果だけでなく過程に目を向けること、子ども自身が選ぶ機会をつくること、そして大人自身が挑戦や試行錯誤する姿を見せることなど、日常の中でできることがあります。
インターナショナルスクールに見られる探究型学習や、多様な背景を持つ人々と日常的に関わる環境も、こうした力を使い、伸ばしていく機会の一つです。重要なのは、特定の教育方法だけで非認知能力が育つと考えるのではなく、子どもが安心して挑戦し、自分で考え、他者と関わり、失敗から学べる経験を継続的に積み重ねられる環境をつくることです。
カリキュラム






